ドンキイ探検隊
ランサムサガの年表
初版97.5.2／改訂98.6.20
「われ、ツバメ号船長ジョン、ならびに、
われ、アマゾン号船長ナンシイは、
われらの船ならびに乗組員のために、
ここに攻守条約を結ぶ。
１９２９年８月、
ヤマネコ島なるこの地において署名封印されたり」
アーサー・ランサム
『ツバメ号とアマゾン号』より
年表の問題点
ランサムサガでは、物語の年代について、ほとんど説明がありません。
わかっている年代ははわずか３つ。『ツバメ号とアマゾン号』の第10章「休戦交渉」にてかわされた攻守条約の“１９２９年８月”と、『ツバメの谷』の第27章「カンチェンジュンガの頂上」にて登頂日を記した“１９０１年８月２日”と“１９３１年８月１１日”だけです。
ところが困ったことがひとつ。
『ツバメの谷』は『ツバメ号とアマゾン号』の翌年です。『ツバメの谷』の冒頭に、ロジャが７才だった去年より大きくなっているという描写があります。なのに、『ツバメの谷』で子供達がカンチェンジュンガに登頂し、その記念に“１９３１年８月１１日”という日付を書き込んでいます。翌年なら１９３０年のはずです。さて、どちらが正しいのでしょう。
私は『ツバメ号とアマゾン号』が１９２９年夏、『ツバメの谷』が１９３０年夏の出来事だと考えています。理由はいたって単純です。『ツバメ号とアマゾン号』が出版されたのは１９３０年、『ツバメの谷』は１９３１年。
ランサムが『ツバメ号とアマゾン号』の元になる出来事を見聞きしたのが１９３０年夏だとしたら、それからどんなに頑張っても同じ年に『ツバメ号とアマゾン号』を出版するのは難しいでしょう。ゆえに、『ツバメ号とアマゾン号』は１９２９年夏の出来事だというわけです。『ツバメの谷』もまったく同じ理由で、１９３０年夏の出来事なのです。
‥‥と単純に信じていたのですが、いくつかの発見（
同盟の日
の項参照）と困惑（
北極の日
の項参照）の末、私はランサムサガの年表がある種の振れを持つ複雑な時空構造体（
ランサムサガの時空構造
の項参照）であることに気づきました。ランサムサガの年表を一意的に決めることはできないのです。ただし、以下の考察は混乱を避けるために『ツバメ号とアマゾン号』が１９２９年夏の出来事だとしておこないます。
北部の湖の出来事
『長い冬休み』は『ツバメの谷』と同じ年の冬です。『長い冬休み』の第８章「リーダーを失う」に、この夏にカンチェンジュンガ遠征に行ったという記述があります。
『ツバメ号の伝書バト』は『ツバメの谷』の翌年の夏です。冒頭で、駅で出会った百姓のおばさんがティティとロジャに、２年前から島でキャンプをして子供さんだろうと訊ねるシーンがあります。２年前とは『ツバメ号とアマゾン号』の年です。
『スカラブ号の夏休み』は『ツバメ号の伝書バト』の翌年の夏です。『スカラブ号の夏休み』の第２章「お客さまの到着」にて、ナンシイが『ツバメ号の伝書バト』で登場した人見知りの激しいティモシイを冬休みと春休みを使って慣らしたという台詞を言っています。
以上の理由から北部の湖の出来事の年表を推定しました。
『ツバメ号とアマゾン号』 １９２９年夏
（ピーター・ダックの物語作り）１９２９年冬
『ツバメの谷』 １９３０年夏
『長い冬休み』 １９３０年冬
『ツバメ号の伝書バト』 １９３１年夏
『スカラブ号の夏休み』 １９３２年夏の初め
イングランド東部ノーフォーク州の出来事
『オオバンクラブの無法者』は『長い冬休み』の翌年、『ツバメ号の伝書バト』と同じ年の春（復活祭の休暇）です。冒頭に、ドロシアとディックが湖畔で過ごした冬休みからずっと帆走したいと思っていたという描写があります。
『六人の探偵たち』はちょっと意外かもしれませんが、『オオバンクラブの無法者』と同じ年の夏の終わりです。冒頭に、死と栄光号がこの春まではただの船載用の古ボートにすぎなかったが、今は新しいマストと帆がついているという描写があります。これは『オオバンクラブの無法者』で死と栄光号が難船救助で褒美をもらった結果です。
以上の理由からイングランド東部ノーフォーク州の出来事の年表を推定しました。
『ツバメ号とアマゾン号』 １９２９年夏
（ピーター・ダックの物語作り）１９２９年冬
『ツバメの谷』 １９３０年夏
『長い冬休み』 １９３０年冬
『オオバンクラブの無法者』 １９３１年春（復活祭）
『ツバメ号の伝書バト』 １９３１年夏
『六人の探偵たち』 １９３１年夏の終り
『スカラブ号の夏休み』 １９３２年夏の初め
イングランド東部サフォーク州の出来事
『海へ出るつもりじゃなかった』『ひみつの海』のふたつは連続した出来事ですから、同じ年の夏であるのは間違いありません。では、さていつの夏なのでしょう。
『ひみつの海』の第11章「戦争か探検か？」にて、ペギイがウォーカー兄姉妹弟に、ウォーカー兄姉妹弟が帰った後にハイ・トップスで起こったこと、ティモシイをどう扱ったのかなどを話して聞かせるシーンがあります。
物語が発行された順番から考えても、『海へ出るつもりじゃなかった』と『ひみつの海』はティモシイが初めて登場し、みんなでハイ・トップスで金鉱探しをした『ツバメ号の伝書バト』と同じ年の夏の終りのような感じです。
しかし‥‥。
問題はブリジットの年令と健康状態なのです。『ひみつの海』ではブリジットが初めてキャンプに参加し、大活躍しています。ところが、これが『ツバメ号の伝書バト』と同じ年だとすると、彼女はつい最近まで百日咳きにかかっていたのです。『ツバメ号の伝書バト』の冒頭で、ティティがブリジットの百日咳きがうつるかもしれないので家へ帰れないという台詞を言っています。
また、『ツバメ号の伝書バト』と同じ年だとすると、ブリジットの年令は４才（
子供達の年令
の項参照）ということになります。
つまり、『ひみつの海』が『ツバメ号の伝書バト』と同じ年の夏の終りであるなら、まだ４才のブリジットが、しかも病後にあんな大活躍をしたことになってしまいます。まあ、それが絶対に無理というわけではありませんが、私は『ひみつの海』は翌年の『スカラブ号の夏休み』の年の夏の終りではないかと考たのです。
『スカラブ号の夏休み』と同じ年であるとしても、ハイ・トップスではまだティモシイが黄銅鉱の採掘を続けていますので、先にあげた『ひみつの海』の第11章「戦争か探検か？」のシーンも成り立ちます。
ところが‥‥。
この推理は間違ってました(^^;
『海へ出るつもりじゃなかった』の第11章「今度はだれの責任か？」にて、危険な夜間航海に臨もうとしているジョンが、２年前の湖での夜間航海を思い出すシーンがあったのです！ 湖での夜間航海とは『ツバメ号とアマゾン号』の出来事です。それから２年後というと『ツバメ号の伝書バト』の年です。
以上の理由からイングランド東部サフォーク州の出来事の年表を推定しました。
『ツバメ号とアマゾン号』 １９２９年夏
（ピーター・ダックの物語作り） １９２９年冬
『ツバメの谷』 １９３０年夏
『長い冬休み』 １９３０年冬
『オオバンクラブの無法者』 １９３１年春（復活祭）
『ツバメ号の伝書バト』 １９３１年夏
『海へ出るつもりじゃなかった』 １９３１年夏の終り
『ひみつの海』 １９３１年夏の終り
『六人の探偵たち』 １９３１年夏の終り
『スカラブ号の夏休み』 １９３２年夏の初め
ちなみに、この話題はNIFTY-ServeのFSHIP-16番会議室（
てぃーるーむアーサー・ランサム
の項参照）で討論されています。
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