ドンキイ探検隊
北海の日
初版98.4.26／改訂98.5.24
三人とも眠っているのだ。ジョンはかじにもどって、もう一度かじに
ぐっとよりかかった。それから、もう一度うすぼんやりした黄色い光の
下のコンパスカードをのぞき、むかい側の座席に片足をつっぱって、操
舵室のふち板にからだをしっかりとおしつけると星がいっぱい出ている
空の一部を見上げ、ちょっと気はずかしい思いをしながら、ぼくはしあ
わせだと心の中でいった。
アーサー・ランサム
『海へ出るつもりじゃなかった』より
『海へ出るつもりじゃなかった』の日程表
『海へ出るつもりじゃなかった』は８月のある月曜日から土曜日までの出来事です。もっとも、『海へ出るつもりじゃなかった』には日付を決定する要素が乏しいため、単独でカレンダー作成することは困難です。そこで、『ツバメ号の伝書バト』『海へ出るつもりじゃなかった』『ひみつの海』が同じ年の夏の出来事ですので、この３つを同時に相互にチェックしてゆくことになります。
曜日は、鬼号が帰港する予定日が金曜日の午後だったことから特定できます。月齢チェックが可能かもしれない夜空の描写は木曜日の夜、鬼号がオランダに向かって疾走している時に、雨がやんだ後、きれいな星空が広がっています。
１日目：月曜日
ウォーカー一家、汽車に乗ってピン・ミルに到着
アルマ荘に泊まる
２日目：火曜日
ジョン達が鬼号の繋留を手助けする
おかあさん、鬼号の船長ジムを夕食に招待する
ジム、ジョン達を鬼号での航海に誘う
３日目：水曜日
午後、鬼号出航
ショットリーにて停泊
４日目：木曜日
ハリッジを通過したあたりで無風となる
フェリクストウで錨を下ろす
エンジンの燃料がなかったため、ジム買い出しに行く
ジム帰らず、鬼号、満潮になって走錨を始める
鬼号、濃霧の中を北海に流れ出る
鬼号、強風の中を南東に向かって帆走する
５日目：金曜日
子猫のシンバット救助
鬼号、北海を横断してオランダに到着
午後、イギリスに向けて出航
６日目：土曜日
鬼号、ピン・ミルに帰る
日付を推定する要素
以下に、日付を特定できるかもしれない部分を挙げてみます。
>>「あと一月したら、オックスフォード大学にいくことになってるんだ」
−−−第１章「もやい結び」P22−−−
>>八月の太陽のおかげで旗のあげ綱がかわいてゆるくなっていたので、
−−−第３章「みんな、約束した」P44−−−
>>「金曜日は午後四時が満潮です。お茶の時間に間に合うように、この人
>> たちをピン・ミルまでつれてかえります。」
−−−第３章「みんな、約束した」P53−−−
>>まっくらな湖上で無謀なことをしたのは、まる二年前だ、とジョンはじ
>>ぶんにいいきかせた
−−−第11章「今度はだれの責任か？」P190−−−
>>「空が晴れてきたわ。ほら、あっちこっちで星がきらきら光ってる。」
−−−第13章「ウールワースの皿」P229−−−
>>雲がなくなって、星のきらめく空が、どんどんひろがっていた。
−−−第15章「目をさましつづける」P245−−−
>>星がいっぱい出ている空の一部を見上げ、
−−−第15章「目をさましつづける」P248−−−
>>ジョンの記憶は、去年の冬ブラケットのナンシイやペギイとやった信号
>>練習や北極探検にもどり、
−−−第15章「目をさましつづける」P251−−−
『ツバメ号の伝書バト』が８月中頃までの出来事だとして、『海へ出るつもりじゃなかった』がその直後に始まったとするなら、ジムが行くことになっているオックスフォード大学の新学期は９月中頃から始まるのでしょうか？
年表で見ると、『海へ出るつもりじゃなかった』は『ツバメ号とアマゾン号』の２年後であり、『長い冬休み』の次の夏となります。
今、私が注目しているのは、ピン・ミルにおける満潮時間のズレです。『ひみつの海』の冒頭にピン・ミルにおける満潮時間が午後２時１５分だという台詞があります。満潮時間が午後４時から午後２時１５分に変わるのは何日後のことかを調べれば、『海へ出るつもりじゃなかった』と『ひみつの海』の間で経過した日数を推定することができるはずなのです。
カレンダー作成のための考察
『海へ出るつもりじゃなかった』は８月中旬以降の出来事だと推定されます。理由は『ツバメ号の伝書バト』が８月中旬までの出来事（
金鉱の日
の項参照のこと）であって、その後に『海へ出るつもりじゃなかった』が始まったからです。
８月中旬以降の木曜日の夜といえば、該当する日付は《１９２９年説》として１９３１年８月１３日、２０日、２７日、および《１９３０年説》として１９３２年８月１１日、１８日、２５日です。さらに、この日付に《深夜から早朝にかけて南東（視界が１８０°として上空および北東から南西にかけて）の方向には月が見えない》という条件を加えます。
１９３１年８月２７日と１９３２年８月１８日はどちらもほぼ満月ですので排除されます。１９３２年８月２５日は、２２時１４分に北東から月が上っているため排除されます。１９３２年８月１１日は、２３時１７分に南西に月が沈んでいるため排除されます。１９３１年８月１３日は新月の夜なので条件には合致するのですが、８月１３日ではここから逆算すると、どんなに切り詰めても『ツバメ号の伝書バト』の始まりが７月２０日頃となり、少し早過ぎます。
残るのは１９３１年８月２０日だけです。
１９３１年８月２０日（木）の深夜から８月２１日（金）の早朝にかけて曇が切れて星空が広がります。この時の鬼号の進路は南東で、月が見えたという描写はどこにもありません。１９３１年８月２０日の月齢は８日のほぼ半月、月の入はロンドンのデーターで２１時３９分、月の出は翌２１日１５時２７分、日没は１９時１５分です。時間は深夜から早朝ですから、月はすでに沈んでいて、ジョンの目には月は映らないことになります。
以上の考察から、『海へ出るつもりじゃなかった』は１９３１年の出来事であり、《１９２９年説》だということになります。そして、北海の日は１９３１年８月２０日（木）です。
『海へ出るつもりじゃなかった』のカレンダー
《１９２９年説》
１９３１年８月１７日（月）
ウォーカー一家、汽車に乗ってピン・ミルに到着
アルマ荘に泊まる
１９３１年８月１８日（火）
ジョン達が鬼号の繋留を手助けする
おかあさん、鬼号の船長ジムを夕食に招待する
ジム、ジョン達を鬼号での航海に誘う
１９３１年８月１９日（水）
午後、鬼号出航
ショットリーにて停泊
１９３１年８月２０日（木）
フェリクストウで錨を下ろす
エンジンの燃料がなかったため、ジム買い出しに行く
ジム帰らず、鬼号、満潮になって走錨を始める
鬼号、濃霧の中を北海に流れ出る
鬼号、強風の中を南東に向かって帆走する
１９３１年８月２１日（金）
子猫のシンバット救助
鬼号、北海を横断してオランダに到着
午後、イギリスに向けて出航
１９３１年８月２２日（土）
鬼号、ピン・ミルに帰る
ちなみに、この話題はNIFTY-ServeのFSHIP-16番会議室（
てぃーるーむアーサー・ランサム
の項参照）で討論されています。
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