ドンキイ探検隊

金鉱の日

初版98.4.26／改訂98.5.24

「暗くっちゃ、あそこへいく道はみつからないと思うな。」　　　　
　ロジャが砲弾を見ながらいった。　　　　　　　　　　　　　　　
　ナンシイはがっかりしてしまった。　　　　　　　　　　　　　　
「大丈夫だよ。」と、ジョンがいった。　　　　　　　　　　　　　
「月が出てないもの、つぶれソフトにだってみつかりゃしないよ。」
アーサー・ランサム
『ツバメ号の伝書バト』より

『ツバメ号の伝書バト』の日程表

『ツバメ号の伝書バト』には日付を決定する要素が乏しいため、単独でカレンダー作成することは困難です。しかし、『ツバメ号の伝書バト』『海へ出るつもりじゃなかった』『ひみつの海』が同じ年の夏の出来事ですので、この３つを同時に相互にチェックしてゆくことになります。

　　１日目：一味の最後であるティティとロジャ、ベックフットに到着
　　　　　　ブリジットの百日咳で、ツバメ号の４人は学校から直接移動
　　　　　　ベックフットの庭でキャンプ
　　　　　　ベックフットの庭でつぶれソフトを見る
　　２日目：ボブに会いに行く途中でつぶれソフトを見る
　　　　　　ボブに会って、ハイ・トップスの金鉱の話を聞く
　　　　　　ナンシイ、キャンプをハイ・トップスに移すと宣言
　　３日目：ハイ・トップスに向けて先発隊出発
　　　　　　ディック、ハト小屋に連動したベル作りに成功
　　　　　　ナンシイ、タイソン農場にキャンプを設営することを提案
　　４日目：タイソン農場にキャンプを移動
　　　　　　ハイ・トップスに登り、つぶれソフトを見る
　　　　　　かもしれぬキャンプを見る
　　５日目：ハイ・トップス探索
　　　　　　つぶれソフトを追い払う
　　６日目：つぶれソフト、グレイ・スクリーズに白丸を描く
　　　　　　みんなで水脈占いを試す
　　７日目：つぶれソフト、グレイ・スクリーズに白丸を描く
　　　　　　ティティ、かもしれぬキャンプで泉を見つける
　　８日目：かもしれぬキャンプで井戸掘り
　　９日目：キャンプを移動
　　　　　　つぶれソフト、グレイ・スクリーズに白丸を描く
　　10日目：グレイ・スクリーズの白丸を調べる
　　　　　　つぶれソフト、グレイ・スクリーズに白丸を描く
　　11日目：ロジャ、金鉱を見つける
　　　　　　「月が出てないもの、つぶれソフトにだってみつかりゃしな
　　　　　　　いよ」（ジョン）
　　12日目：金鉱に権利書を立てる
　　　　　　ジョンとロジャ、金鉱で眠る
　　13日目：年少組、オールドレベルに入って落盤事故に会う
　　　　　　ボブがつぶれソフトの仲間だとわかる
　　　　　　金鉱近くでつぶれソフトの落としたマッチ箱を見つける
　　　　　　ジョンとロジャ、金鉱で眠る
　　14日目：自分達だけで金のインゴットを作る決意をする
　　　　　　ディック、吹管を買う時につぶれソフトを見る
　　　　　　ペギイ、ベックフットからふいごを持ち出す
　　　　　　炭焼きの準備
　　15日目：炭焼きの寝ずの番
　　16日目：溶鉱炉を作成して寝ずの番
　　　　　　タイソンおばさんが文句を言いに来る
　　17日目：金のインゴット作り失敗に終わる
　　　　　　フリント船長帰宅、ディックにそれが銅であることを教える
　　　　　　ハイ・トップスで火災発生
　　　　　　消火活動の最中、フリント船長とティモシー再会する
　　　　　　ナンシイ、フリント船長に条件付きで鉱山の権利を譲る

日付を推定する要素

　ここで、日付を推定するわずかな要素は、ツバメ号の４人が家には帰らずに、学校から直接ベックフットに移動しているということです。
　ツバメ号の４人が通っている寄宿学校の夏休みがいつから始まるのかがわかれば一番いいのですが、７月末から８月初めだろう考えられます。その根拠は、第８章「ハイ・トップス」P116にある描写

>>今年の八月は日でりなので、川は干あがった川床になっていた。

　です。これは日程表の４日目にあたります。もっとも、この八月という表現はあいまいです。実は『ツバメの谷』の第１章「ツバメ号と乗組員」P10にも同じような描写があるのです。

>>一年がすぎさり、いまはまた八月だった。

　これは『ツバメの谷』の日程表の第１日目であり、カレンダーでいうと７月２８日にあたります。『ツバメの谷』でも、ツバメ号の４人ができるだけ早くヤマネコ島に行きたい（戻りたい）と願っていたわけですから、夏休みが始まってすぐに北部の湖に向かったと考えても、それほど大きな間違いではないだろうと思います。
　また、『スカラブ号の夏休み』でディックは夏休みの最初の２週間を過ごすために、学校から直接ベックフットに向かっています。ディック（とドロシア）がベックフットに着いたのは８月１日。『スカラブ号の夏休み』はブラケット夫人が病気療養の旅行から帰る日付が記されていますから、このディック到着の日付はかなり正確です。そこで『ツバメ号の伝書バト』の第１日目も７月末から８月初めだろうと推定できます。

カレンダー作成のための考察

　『ツバメ号の伝書バト』は７月末あるいは８月初めから８月中旬までの出来事だというだけで、日付を決める要素がほとんどありません。ただし、『海へ出るつもりじゃなかった』が８月１７日から始まっている（ 北海の日 の項参照のこと）ことから、ある程度の推理は可能です。
　８月１７日にウォーカー一家はピン・ミルに汽車でやってきています。北部の湖で休暇を楽しんでいる時におとうさんが帰国するという電報を受け取ったとして、ベックフットを出発できるのはどんなに早くても翌日でしょう。冒険中の子供達の気持ちを考えると、出発は電報を受け取った翌々日になるだろうと思われます。ロンドンまで帰って一泊、その翌日にピン・ミルに着くとすれば『ツバメ号の伝書バト』から『海へ出るつもりじゃなかった』までの間は最低３日間ということになります。

　『ツバメ号の伝書バト』の最後の日を８月１３日とすると、最初の日は７月２８日となり、なんとか７月末という日付になります。さて、この日付（《１９２９年説》では１９３１年、《１９３０年説》では１９３２年）を使って月齢チェックをしてみます。月齢チェックが可能と思われるのは４箇所です。

>>星のきらめく夜のやみが、アマゾン溪谷や音もなく流れる小川や芝生の
>>テントの群れをつつんでいた。
　　　　−−−第２章「計画」P35−−−

>>ティティはたき火から目をそらすと、頭上のどこかにある丘陵の輪かく
>>を見ようと、暗やみに目をこらした。
　　　　−−−第２章「計画」P37−−−

　この２つは、初日すなわち７月２８日の描写です。
　１９３１年７月２８日は月齢１４日のほぼ満月、月の出はロンドンのデーターで２０時０８分、日没は１９時５７分です。日没直後から満月が出ますから、描写に合致しません。
　１９３２年７月２８日は月齢２５日の逆三日月、月の出はロンドンのデーターで２３時３９分、日没は１９時５６分です。日没後４時間ほどして月が出ますから、描写に合致しています。

>>「月が出てないもの、つぶれソフトにだってみつかりゃしないよ。」
　　　　−−−第20章「ロジャはどうなった？」P279−−−

　１１日目すなわち８月７日のジョンの言葉です。偶然、金鉱を発見したロジャが日が暮れてからキャンプに帰ってきます。周囲はずいぶん暗いようです。
　１９３１年８月７日は月齢２３日のほぼ半月に近く、月の出はロンドンのデーターで２２時２９分、日没は１９時４０分です。日没後３時間ほどして月が出ますから、描写には合致していますが、その後には月が上るわけで意味としてはおかしいということになります。
　１９３２年８月７日は月齢６日の太めの三日月、月の入はロンドンのデーターで２１時１７分、日没は１９時３９分です。日没後２時間ほどで月が沈みますから、描写に合致していますし意味もあっています。

>>むこうの暗やみの中で、また懐中電灯の光が見えた。
　　　　−−−第22章「砕石と選別」P313−−−

　１２日目すなわち８月８日の描写です。金鉱に泊まるジョンとロジャがキャンプに向かってモールス信号を送っています。１９３１年８月８日は月齢２４日のほぼ半月に近く、月の出はロンドンのデーターで２２時５８分、日没は１９時３９分です。日没後３時間ほどして月が出ますから、描写には合致しています。
　１９３２年８月８日は月齢７日のほぼ半月近く、月の入はロンドンのデーターで２１時３４分、日没は１９時３７分です。日没後２時間ほどで月が沈みますから、こちらも描写に合致しています。

　以上の考察から『ツバメ号の伝書バト』は１９３２年の出来事であり、《１９３０年説》だということになります。そして、金鉱の日は１９３２年８月７日（日）です。

『ツバメ号の伝書バト』のカレンダー
　《１９３０年説》

　１９３２年７月２８日（木）
　一味の最後であるティティとロジャ、ベックフットに到着
　ベックフットの庭でキャンプ

　１９３２年７月２９日（金）
　ボブに会って、ハイ・トップスにあるという伝説の金鉱の話を聞く
　ナンシイ、キャンプをハイ・トップスに移すと宣言

　１９３２年７月３０日（土）
　ハイ・トップスに向けて先発隊出発
　ディック、ハト小屋に連動したベル作りに成功
　ナンシイ、タイソン農場にキャンプを設営することを提案

　１９３２年７月３１日（日）
　タイソン農場にキャンプを移動
　“かもしれぬキャンプ”を見る

　１９３２年８月１日（月）
　ハイ・トップスで伝説の金鉱を探す
　つぶれソフトを追い払う

　１９３２年８月２日（火）
　つぶれソフト、グレイ・スクリーズに白丸を描く
　みんなで水脈占いを試す

　１９３２年８月３日（水）
　つぶれソフト、グレイ・スクリーズに白丸を描く
　ティティ、“かもしれぬキャンプ”で泉を見つける

　１９３２年８月４日（木）
　“かもしれぬキャンプ”で井戸掘り

　１９３２年８月５日（金）
　キャンプを移動
　つぶれソフト、グレイ・スクリーズに白丸を描く

　１９３２年８月６日（土）
　伝説の金鉱探し
　つぶれソフトが描いたグレイ・スクリーズの白丸を調べる

　１９３２年８月７日（日）
　ロジャ、伝説の金鉱を発見

　１９３２年８月８日（月）
　金鉱に権利書を立てる

　１９３２年８月９日（火）
　金の採掘
　年少組、オールドレベルに入って落盤事故に会う

　１９３２年８月１０日（水）
　炭焼きの準備

　１９３２年８月１１日（木）
　炭焼きプディングの寝ずの番

　１９３２年８月１２日（金）
　溶鉱炉の寝ずの番

　１９３２年８月１３日（土）
　ハイ・トップスで火災発生
　ナンシイ、フリント船長に条件付きで鉱山の権利を譲る

　ちなみに、この話題はNIFTY-ServeのFSHIP-16番会議室（ てぃーるーむアーサー・ランサム の項参照）で討論されています。

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