ドンキイ探検隊
泥棒の日
初版98.6.20
やがて、太陽が沈んで夜がくると、ディックは小屋の入口に三本足の
いすを持ち出してこしかけ、フクロウのなき声をききながら、月の出を
じっと待った。
アーサー・ランサム
『スカラブ号の夏休み』より
『スカラブ号の夏休み』の日程表
『スカラブ号の夏休み』にはブラケット夫人とフリント船長が休養旅行から帰る日付（１３日）が記されています。この日付に何月かという記述はないのですが、前後の描写から８月だと推定できます。
>>ナンシイとペギイは、新しくかいた二枚の海賊印を、八月のあつい太陽
>>にあててかわかすために、
−−−第１章「約束の訪問客」P14−−−
>>「コクアリスベ テヨシハハ一三クル」
−−−第１章「約束の訪問客」P18−−−
以下は『スカラブ号の夏休み』の日程表です。☆印は月齢チェックが可能な描写、◎印は日付を特定するための情報です。
１日目：大おばからの電報が届く
「ベックフットはあなたがただけか」
◎ナンシイの返信「コクアリスベテヨシハハ一三クル」
Ｄ姉弟到着、船大工の工場でスカラブ号を見る
２日目：大おばから手紙が届く
◎「お母様の帰宅の前夜まで、家のきりもりをします」
Ｄ姉弟、犬小屋に移り住む
大おば到着
３日目：ピクト港を作る
４日目：Ｄ姉弟、ジャッキイからマスのくすぐりかたを教わる
５日目：Ｄ姉弟、ジャッキイからウサギをもらう
スカラブ号進水
真夜中から降り始めた雨で、犬小屋に雨漏り
６日目：一日中雨、夜になって雷雨
Ｄ姉弟、午後７時過ぎになってウサギを料理する
ナンシイ、午後１０時半に犬小屋を訪ねる
ナンシイ、Ｄ姉弟に泥棒になることを指示する
☆「今は月があるから、今夜みたいじゃないわ」
☆雲の後ろに月が見えたけれど、道はとても暗かった
７日目：Ｄ姉弟、フリント船長の書斎に泥棒に入る
☆太陽が沈んで夜がくると、月の出をじっと待った
☆午前１時まで床につかなかった二人の泥棒
８日目：Ｄ姉弟、屋形船に行ってティモシーを手伝う
９日目：Ｄ姉弟、屋形船に行ってティモシーを手伝う
10日目：みんなでハイトップスの鉱山へ行く
◎「大おばは明日帰る」
大おば、行方不明になる
ナンシイとペギイ、真夜中過ぎに犬小屋を訪ねる
☆「あと４、５時間で夜が明けるわ」
☆月に照らされた森の中を下っていく足音
11日目：大おば、無事発見される
◎「ブラケット夫人は明日帰ってくるね」
◎「夏休みがまるまる５週間も残っているんだもの」
カレンダー作成のための考察
ブラケット夫人が休養旅行から帰るのが８月１３日ですので、そこから逆算すれば、日程表の第１日目が８月２日となります。月齢チェックが可能なのは第６日目（８月７日）、第７日目（８月８日）、第１０日目（８月１１日）の夜です。特に第７日目のＤ姉弟が泥棒になった夜はとても明るくて、ほぼ満月だったのではないかと思われます。
月齢チェックは《１９２９年説》となる１９３２年と、《１９３０年説》となる１９３３年について行います。
まず第６日目（８月７日）の夜です。ナンシイが午後１０時半になって雨の中を犬小屋にやってきます。ナンシイはここでウサギのシチュウを食べ、雷雨の中をベックフットに戻ります。この時、雲の後ろに月が見えています。
>>なべを火のそばから引き出したのは、十時半だった。外でがぼっ、
>>がぼっという足音がした。つぎの瞬間、だれかが入口にあらわれた。
−−−第17章「通信を待つ」P258−−−
>>雲の後ろに月が見えたけれど、道はとても暗かった。
−−−第17章「通信を待つ」P258−−−
１９３２年８月７日はちょっと太めの三日月、月の出はロンドンのデーターで１１時４分、月の入りは２１時１７分です。ナンシイが犬小屋を出たのは２３時を過ぎていたと考えられますので、描写に適合しません。
１９３３年８月７日はほぼ満月、月の出はロンドンのデーターで２０時３７分、月の入りは翌日の１１時８分です。描写に適合します。
次は第７日目（８月８日）の夜です。ディックは日没後に月の出を待っています。この夜は晴れていて、Ｄ姉弟はずっと明るい月の光を受けています。Ｄ姉弟が犬小屋に戻って眠ったのは午前１時です。
>>やがて、太陽が沈んで夜がくると、ディックは（中略）、月の出を
>>じっと待った。
−−第19章「わたしたち、どろうぼうになったことはない」P276−−
>>その間ずっと、月はのぼりつづけていた。
>>夜空はどんどんあかるくなった。
−−第19章「わたしたち、どろうぼうになったことはない」P278−−
>>午前一時まで床につかなかったふたりのどろうぼうは、おそくなって
>>目ざめたが、
−−−第20章「警察だ！」P293−−−
１９３２年８月８日はちょっと痩せた半月、日没はロンドンのデーターで１９時３７分、月の出は１２時３２分、月の入りは２１時３４分です。日没よりずっと前に月は上っていたことになり、描写に適合しません。
１９３３年８月８日はほぼ満月、日没はロンドンのデーターで１９時３７分、月の出は２０時５６分、月の入りは翌日の１２時１４分です。ディックは日没後、１時間２０分ほど待って月の出を確認したことになり、描写に適合します。
最後は第１０日目（８月１１日）の夜です。ナンシイとペギイが真夜中を過ぎて犬小屋を訪れ、夜明け前４〜５時間になって、月明かりの中をベックフットに戻っています。
>>真夜中をすぎてだいぶたったとき、小屋の外で足音がきこえた。ナンシ
>>イとペギイが、またベックフットからのぼってきたのだ。
−−−第25章「完全にきえた」P385−−−
>>「あらっ、おどろき、もものき！ あと四、五時間で夜があけるわ」
−−−第25章「完全にきえた」P387−−−
>>月にてらされた森の中をくだっていく足音が、もうきこえなくなった
>>とき、ディックがいった。
−−−第25章「完全にきえた」P387−−−
１９３２年８月１１日はちょっと太めの半月（上弦）、月の出はロンドンのデーターで１６時５１分、月の入りは２３時１７分です。１９３２年８月１２日の日の出は４時４１分ですので、ナンシイとペギイが森の中を歩いていた時間には月は出ていないことになり、描写に適合しません。
１９３３年８月１１日はちょっと太めの半月（下弦）、月の出はロンドンのデーターで２２時１４分、月の入りは翌日の１５時２２分です。１９３３年８月１２日の日の出は４時４１分ですので、ナンシイとペギイが森の中を歩いていた時間には月は出ていることになり、描写に適合します。
すなわち、『スカラブ号の夏休み』は１９３３年の出来事であり、《１９３０年説》となることがわかります。
以上の考察から『スカラブ号の夏休み』のカレンダーを作ります。
泥棒の日は１９３３年８月８日（火）です。なお、最後のナンシイの言葉「夏休みがまるまる５週間も残っているんだもの」をそのまま信じるならば、夏休みは９月１６日（土）まであるということになります。
『スカラブ号の夏休み』のカレンダー
《１９３０年説》
１９３３年８月２日（水）
Ｄ姉弟、ベックフットに到着
１９３３年８月３日（木）
Ｄ姉弟、犬小屋に移住する
大おば、ベックフットに到着
１９３３年８月４日（金）
スカラブ号進水にそなえてピクト港を作る
１９３３年８月５日（土）
Ｄ姉弟、ジャッキイからマスのくすぐりかたを教わる
１９３３年８月６日（日）
Ｄ姉弟、ジャッキイからウサギをもらう
スカラブ号進水、南極まで初航海
１９３３年８月７日（月）
Ｄ姉弟、ウサギを料理する
ナンシイ、Ｄ姉弟に泥棒になることを指示する
１９３３年８月８日（火）
Ｄ姉弟、フリント船長の書斎に泥棒に入る
１９３３年８月９日（水）
Ｄ姉弟、屋形船に行ってティモシーを手伝う
１９３３年８月１０日（木）
Ｄ姉弟、屋形船に行ってティモシーを手伝う
１９３３年８月１１日（金）
みんなでハイトップスの鉱山へ行く
大おば、行方不明になる
１９３３年８月１２日（土）
大おば、無事発見される
ちなみに、この話題はNIFTY-ServeのFSHIP-16番会議室（
てぃーるーむアーサー・ランサム
の項参照）で討論されています。
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